ぱとすの人

短歌同人誌「ぱとす」に掲載した文章や編集後記を公開します。

ぱとす2021年11・12月号後記

 ぱとすはえっちらおっちら復刊第三号まで辿り着きました。秋が深まり、街はこれからだんだん慌しくなっていきます。去年の今ごろの自分を振り返ってみますと、翌年にこのような短歌同人誌を発行しているとは夢にも思わず、私の日記にはだいたい毎日二、三行で平穏無事に終った日々のことが記されています。ただ、本当に注意深く記憶をたどると、今年起きたすべての予兆はこのときすでに存在していたような気もします。
 無明長夜という四字熟語があります。仏教の言葉で、私たちが根本的に無知であるため煩悩に迷い、悟りを得られずにいる様子をさしています。この迷いの状態を長く続いて明けない夜に例えたもので、人は本質的にこのような無明の状態に置かれて生きているという考えが私たち人間についての仏教の基本認識なのです。
 仏教に関心を持つようになったのは、今年の三月にそれまで十二年間いっしょに暮らしてきた黒猫に死なれて、命の儚さを痛感したからでした。この十二年間は仕事や趣味、出会えた人々とのお付き合いなどを通じて、私という人間がようやく人間らしくその形を整えることができるようになったとてもありがたい歳月でした。そして、私の人格が熟していった貴重な時間をともに過ごしてくれたのがチョコという私の黒猫でした。長い夜にこの人生の道を歩いていくのは寂しいことですが、チョコがいてくれたおかげで、寂しさをまぬがれていられる幸福な十二年間でした。
 いつか法性の光に照らされる日が来ることを信じて、来年も私たちのぱとすで歌い続けたいと思います。

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