ぱとすの人

短歌同人誌「ぱとす」に掲載した文章や編集後記を公開します。

『岡野弘彦全歌集』ノート其の七

・しづまりし湖のみぎはのさざ浪に月照りてくるを見てい寝むとす(「さざ浪の国」)・近江の湖塩津の浦に寄る波のさゐさゐとしてさびしき真昼(「さざ浪の国」)・早苗田の棚田のなかを流れゆく八田部の川の瀬の音すみくる(「さざ浪の国」)・水底の藻草の…

ぱとす2024年春号後記

本年の「ぱとす」第一号をお届けします。今年から雑誌「ぱとす」は季刊になりました。復刊から二年半、隔月刊で発行してきましたが、つくづくこの雑誌が嫌になりました・・・・・・というのはウソで、バックナンバーをつらつら眺めるとまるで我が子のように愛しく…

『岡野弘彦全歌集』ノート其の六

・猩々木道をうづめて咲きつづく名護の入江に人を訪ひきつ(「妣の島」)・ベトナムへたちゆく兵に犯されし女の末を憤りいふ(「妣の島」)・言ふことはつたなけれども老いびとの歎くまなこの澄みてはげしき(「妣の島」)・仏桑華くれなゐふかく咲き垂るる…

ぱとす2023年11・12月号後記

この編集後記を書いているのは師走の半ばで、雑誌の発行はほぼ二か月遅れとなりました。隔月刊での発行は難しく、来年から「ぱとす」は季刊になります。 京都の清水寺で毎年発表される「今年の漢字」は「税」に決まりました。私は暑か戦だろうと思っていまし…

『岡野弘彦全歌集』ノート其の五

全歌集の『冬の家族』の続きを読んで感想を記します。 ・のどかなる憩ひを欲ひてこしならず心つつましく寺庭にをり この「大和いづかた」の章は東京を離れて過去の出来事から詠まれた作品が集められています。寺院の固有名詞もいくつかの歌の中に登場します…

ぱとす2023年9・10月号後記

「東京駅11番線ホーム」 ©ナカジマ・ヨシモリ 記録的な猛暑の夏を皆さま無事に乗り切られましたか。暑さ寒さも彼岸までという慣用句はもうこの国で使えないのでしょうか。お彼岸を過ぎてまだこの暑さが収まりません。かつての日本の四季の区分はすっかり崩れ…

川口慈子歌集『Heel』の感想

川口慈子歌集『Heel』(短歌研究社)を読みました。著者の第二歌集です。Heel(ヒール)とはプロレスの悪役のことで、著者は女子プロレスのファンのようです。・Heelにはなれないけれど漆黒のルージュ濃く引く出勤の朝 音楽を大学院の博士課程ま…

ぱとす2023年7・8月号後記

しながわ中央公園のカンナ 東京は今年も昨年と同様に梅雨に雨があまり降らず、ついに梅雨明けとなりました。連日の猛暑ですでに私はギブアップ寸前です。 ほぼ一月遅れの発行となりました。すみません。以前と比べて少なくなったページ数を元に戻そうといろ…

『岡野弘彦全歌集』ノート其の四

・眼を据ゑて我に迫りし学生も疲れ帰りぬ午前三時に(『冬の家族』「しひたぐるまじ」) 昔の学生運動はこんな時間まで真剣にやっていたようです。時代が下がると学生運動の活動は安易なものになり、安倍政権時代のSEALDsに至ると若者が楽しむだけのお…

ぱとす2023年5・6月号後記

「交差点」 ©ナカジマ・ヨシモリ 本年第三号をお届けします。「ぱとす」はこれで二年間雑誌を発行できたことになります。ちょうど二年前の今ごろは、復刊第一号に参加してくれる同人を募っていました。その時に参加してくれた同人のうち何人かは、残念ながら…

『岡野弘彦全歌集』ノート其の参

四か月ぶりに岡野弘彦全歌集のページを開きました。『冬の家族』の続きを読み感想を書き留めます。 ・蒼ざめし耳朶より血しほしたたらせ抱かれてこし自治会学生(「しひたぐるまじ」)・論理ただしくもの言ふ一人たちまちに荒き罵声のなかに揉まれゆく(「し…

ぱとす2023年3・4月号後記

「街のアーティストたち」 ©ナカジマ・ヨシモリ 本年第二号をお届けします。東京はもう桜が咲いています。 本当はもっと早くこの号を出すつもりでした。公私にわたりトラブル続きで時間がなく、今ごろの発行となりました。 短歌同人誌ですから編集後記にも文…

西真行歌集『〈結石〉を神と言おうか』感想

西真行歌集『〈結石〉を神と言おうか』(ながらみ書房)を読みました。著者の西真行さんは「塔」所属の歌人でこれが第一歌集です。 左尿管結石を患うようになってからの二か月間の闘病記として纏められた歌集です。その病の性質から治療においてかなりの苦痛…

ぱとす2023年1・2月号後記

明けましておめでとうございます。発行が少し遅れましたが、本年もよろしくお願いします。 正月明けの最初の三連休に日蓮宗本山の池上本門寺に行ってお参りしました。本門寺に隣接する池上大坊本行寺には日蓮大聖人ご臨終の間というものがあり、そのお堂の前…

『岡野弘彦全歌集』ノート其の弐

私は秀歌をあまり読んでこなかった気がしますので、『岡野弘彦全歌集』の読み込みを続けて少しきちんと短歌を学んでいきたいです。 ・月蒼き夜半にいできて連翹の花むら燃ゆる庭に立つなり(「花」)・妻子らにかかはる憂ひ耐へきつつあまり明るし連翹の花(…

ぱとす2022年11・12月号後記

今年最後の「ぱとす」をお届けします。表紙の写真は私が歩いて実家に行く途中の高台から撮影したものです。遠くに見える富士山の辺りに夕陽が沈み、シャッターチャンスだと思いスマホを取り出したところ、ちょうど新幹線が通りました。 雑誌の中身につきまし…

『岡野弘彦全歌集』ノート其の壱

『岡野弘彦全歌集』を買いました。昨年十二月に青磁社から刊行された箱入り定価一万二千円の本です。全歌集とは通常はこのように歌壇で活躍している歌人が生きているうちにその歌業を振り返って出版されます。 私の仕事は行政書士ですが恥ずかしいほど経済力…

ぱとす2022年9・10月号後記

露地に咲くヒガンバナ 大変遅くなりましたが、9・10月号をお届けします。今日は彼岸入りで、赤いヒガンバナが満開でしたのでそれを写真に撮り表紙にしました。 世間はさまざまな事件で騒がしい状態が続いています。平成も始まったころはバブル崩壊やオウム真…

荏原病院

荏原病院正面玄関 中学1年のときに体育の授業で右腕の骨を複雑骨折しました。都立荏原病院の整形外科に運ばれて、確か2週間ぐらい入院したと記憶しています。 私が治療を受けているとき、同じように入院していた患者の中年男性から最近の子供は骨が弱くな…

ぱとす2022年7・8月号後記

ガス橋(東京都大田区) 発行が少し遅れましたが「ぱとす」7・8月号をお届けします。 表紙のガス橋は東京都大田区と神奈川県川崎市をつないで多摩川に架かる橋です。 東京ガスの鶴見製造所で製造されたガスを東京に送るためにつくられた橋で、昭和4年にガ…

「萩」第10号(終刊号)

畠山満喜子さんから短歌同人誌「萩」10号をいただきました。終刊号なのだそうです。 同人10名の短歌作品の他に随想作品としてエッセイも掲載されています。特に畠山さんは文学等について八つの随筆を発表されており、これが日本の古典文学と近代文学について…

ぱとす2022年5・6月号後記

「ぱとす」5・6月号表紙 昨年の7月に復刊第1号を発行して、この5・6月号は復刊第6号となります。明るい雰囲気の雑誌にしたいと思いまして、今回は表紙を花の写真にしました。品川区立しながわ中央公園に植えられている花です。この公園の近くに品川区総…

新しきわれのうた

書評:横山岩男歌集『うたの歳月』(いりの舎) 平成二十九年から昨年七月までの作品を収めた第九歌集。五年前の早春に著者は次の歌を詠まれている。・立春の光明るく日の方へ歩み出ださむわれの一歩を・良きことのまだあるごとく思はれて生日けふを子らに祝…

ぱとす2022年3・4月号後記

平沢官衙遺跡 本年第二号をお届けします。かなりページ数が少なくなりました。月刊で雑誌をつくるのは難しいですが、隔月刊ならばこの歌と文章の量で雑誌をつくるのもなかなか良いかなとも思います。次の五・六月号の原稿締め切りは四月十日ですので、同人の…

We shall be released.

『チョコレートドーナツ』という10年前にアメリカで製作された映画を観ました。原題は「Any Day Now」で、これはザ・バンドの名曲「I Shall Be Released」の歌詞の一節です。実はザ・バンドのこの曲を聴きたくなってたまたまYouTubeでいろいろなカバーを聴い…

ぱとす2022年1・2月号後記

明けましておめでとうございます。まとまった文章はぱとすの人に書くことにして、今年からこの編集後記は断片的にお伝えすべきことを書いていこうと思います。 まず、原稿の締め切りは偶数月の十日です。従いまして、次の三・四月号の締め切りは二月十日です…

楢山節考を考える

今村昌平監督の「楢山節考」を観ました。1983年の作品で、この作品が公開されたとき私は中学生でした。貧しい山村における姥捨てを描いた作品で、公開当時に話題になっていたので観たいと思ったのですが、すでにこの映画を観た同級生がひどい評価の話を私に…

 山口雄也著『「がんになって良かった」と言いたい』感想

『「がんになって良かった」と言いたい』(徳間書店刊)を読みました。著者の山口雄也さんは大学一年のときにがんを宣告されて闘病生活に入りました。闘病生活をブログに記し、それが地元の新聞で「がんになってよかった」というタイトルとともに取り上げら…

ぱとす2021年11・12月号後記

ぱとすはえっちらおっちら復刊第三号まで辿り着きました。秋が深まり、街はこれからだんだん慌しくなっていきます。去年の今ごろの自分を振り返ってみますと、翌年にこのような短歌同人誌を発行しているとは夢にも思わず、私の日記にはだいたい毎日二、三行…

ぱとす2021年9・10月号後記

「ぱとす」復刊第2号をお届けします。前号より4ページ増えました。中綴じの雑誌ですから、ページ数は4ページごと増減します。今号も歌と文章ともにかなり良い原稿が集まったと思います。 これらを印刷物にするのは責任重大です。しっかり自分の役目を果た…